清水(しみず)の井(いど)


 第六の男は語る。

 

唯今は九州のお話が出たが、僕の郷里もやはり九州で、あの辺にはいわゆる平家伝説というものがたくさん残っている。伝説にはとかく怪奇のローマンスが付きまとっているものであるが、これなどもその一つだ。ただしこれは最近の出来事ではない。なんでも今から九十年ほども昔の天保(てんぽう)初年のことだと聴いている。

岡本綺堂 おかもと きどう

劇作家、小説家。本名は敬二、別号に狂綺堂。イギリス公使館に勤めていた元徳川家御家人、敬之助の長男として、東京高輪に生まれる。
生涯に196篇の戯曲を残す。コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ物を原著でまとめて読んだのをきっかけに、江戸を舞台とした探偵小説の構想を得、 1916(大正5)年からは「半七捕物帳」を書き始めた。